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聖書から学ぶ
聖書は「貧困」をどう捉えているか
主は仰せられる。 「悩む人が踏みにじられ、貧しい人が嘆くから、 今、わたしは立ち上がる。 わたしは彼を、その求める救いに入れよう。」 詩篇 12篇6節
このページを作るきっかけ
- 「サブプライムローン」問題は、貧乏人を食い物にする大型詐欺・経済犯罪ではないかと思った。「金融工学」なるものを操って、ババ(信用度の低い債権)を忍ばせた金融商品を売りまくった張本人はうまいこと売り抜けてボロ儲けをした。その余波は世界中に広がり、結局立場が不安定な人々がもっとも辛い思いをした。「年越し派遣村」などはその一例ではないか。
- 一時期「格差」、「格差」と騒がれたが、その頃から「格差」ではなくて、「搾取」ではないかと考えていた。私の考えでは、「搾取」とは、「相手の生活が成り立たない状況で仕事をさせること」である。普通、自分の子どもには将来に希望が持てる安定した仕事につき、家庭を築いてもらいたいと願うものです。目の前の人が、自分の子どもだったら、させたくないような条件で働いていることで、自分の生活が潤うのであるならば「搾取」ではないかと考えてみた方がいいのではないだろうか。
- 法律を作り、制度を変え、今までは法律違反とされていたことが許されることによって、「格差」が広がるのであるならば、個人の問題・自己責任とは、もはや言えないでしょう。それにしても、「一億総中流」意識が、なんとあっけなく崩れてしまったことだろう。
- NHKの2年前の統計によると、そのときすでに、日本の子どもの貧困率は北欧諸国の子どもの3倍。先進諸国で暮らす貧困状態の子どもの10人に1人が日本の子どもとなっていた。そして2014年現在、日本の子どもの貧困率は16.3%になり、6人に1人が相対的貧困の中に置かれている。
- 礼拝メッセージで詩篇12篇を取り上げたときに、6節のみことばを調べるために、旧約聖書で「貧しい」と翻訳されている言葉のワード・スタディをした。そのときに、遅まきながら貧困の問題は魂の問題でもあることに気がついた。
基礎作業
ステップ1
聖書(新改訳聖書第3版)で、「貧」という漢字が使われている箇所は、旧約聖書で149箇所、新約聖書で42箇所ある。ここから、どのような原語が使われているかを調べた。
ステップ2
日本語訳で「貧」の字を使って翻訳されているヘブルの単語は、ストロングという辞書の番号による区別だと12種類ある。ヘブル語では、以下の言葉が翻訳で「貧」という語が使われていた。(頻度の多い順番)
原語 | 読み | 意味 | 主な訳語 | strong# | 回数 |
---|---|---|---|---|---|
עָנִי | ani | poor, week | 悩む者、貧しい者 | 6041 | 77 |
עָנָו | anav | poor, afflicted, humble, meek | 貧しくある | 6035 | 20 |
עֲנָה | anah | poor | 貧しい者 | 6033 | 1 |
אֶבְיוֹן | ebyon | want, needy, poor | 貧しい | 34 | 61 |
דָּל | dal | to be low, hang down | 貧しい、寄るべのない | 1800 | 47 |
רוּשׁ | rush | to be in want or poor | 貧しくある | 7326 | 24 |
מַחְסוֹר | machsor | a need, thing needed, poverty | 不足 | 4270 | 13 |
יָצַר | yatsar | be distressed, be narrow | 狭められる | 3334 | 10 |
דַּלָּה | dallah | hair, the poor | 貧民、(髪) | 1803 | 8 |
רֵאשׁ | resh or rish | poverty | 貧しさ | 7389 | 7 |
מוּך | muk | to be low or depressed | 貧しくなる | 4134 | 5 |
מִסְכֵּן | misken | poor | 貧しい | 4542 | 4 |
סָכַן | sakan | to incur danger, be poor | 貧しい者 | 5533 | 2 |
ステップ3
上記の作業でヘブル語で「貧しい」という意味の単語は出尽くしていると思われるので、今度は、日本語に翻訳する時にどのような訳語を当てられているか、また、どのような文脈で使われているかを一覧にしてみた。そして各聖句を次の7種類に分けてみた。(区分はおおよそです)
●:神の命令、●:神の約束・神への確信、●:信仰者の神に対する祈り
●:人間の主張、●:神に背く人々の行い、●:箴言的言及、●:それ以外
「箴言」については、区分けがかなり難しく迷った。再検討の余地がかなりあると思われる。
この分類作業の中で上に述べた「きっかけ」のテーマを考察するにふさわしい単語は、●●●●●のついている単語と聖句であり、それは上の表の上から7段目までと下から3段目の muk(レビ記の中だけ5回)であると思われる。
ステップ4
書名毎の出現頻度を表にしてみた。
書名 | 合計 | ani | anav | anah | ebyon | dal | rush | machsor | muk |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Gen | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
Exo | 5 | 1 | 0 | 0 | 2 | 2 | 0 | 0 | 0 |
Lev | 9 | 2 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 5 |
Num | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
Deu | 12 | 4 | 0 | 0 | 7 | 0 | 0 | 1 | 0 |
Jos | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
Jud | 4 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 3 | 0 |
Rut | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 |
1Sa,2Sa | 9 | 1 | 0 | 0 | 1 | 3 | 4 | 0 | 0 |
1Ki-2Ch | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
Ezr,Neh | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
Est | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 |
Job | 19 | 6 | 1 | 0 | 6 | 6 | 0 | 0 | 0 |
Psa | 72 | 30 | 11 | 0 | 23 | 5 | 2 | 1 | 0 |
Pro | 51 | 8 | 0 | 0 | 4 | 15 | 16 | 8 | 0 |
Ecc | 3 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 |
Sol | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
Isa | 26 | 12 | 4 | 0 | 5 | 5 | 0 | 0 | 0 |
Jer,Lam | 7 | 1 | 0 | 0 | 4 | 2 | 0 | 0 | 0 |
Eze | 7 | 4 | 0 | 0 | 3 | 0 | 0 | 0 | 0 |
Dan | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
Hos,Joe | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
Amo | 12 | 1 | 2 | 0 | 5 | 4 | 0 | 0 | 0 |
Oba-Nah | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
Hab | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
Zep | 3 | 1 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 |
Hag | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
Zec | 4 | 4 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
Mal | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
観察・気付き
- 出現頻度の表から、詩篇が最も多く72回、ついで箴言の51回、以下イザヤ書:26回、ヨブ記:19回となっている。逆に、創世記には一度も用いられず、また、列王記からネヘミヤまでの間では一度も使われていないのには驚いた。
- 出現回数から、小預言書の中では、アモス書が重要な預言書であることが分かる。
- ヨブ記では、誰の発言であるかを調べてみる必要がある。ヨブが自分の義を主張する中で、単に殺人、強盗、窃盗などの「犯罪」を犯さないだけでなく、社会的に弱者にも配慮してきたという文脈の中で使われているとしたら注目に値する。
- 言葉の種類、回数だけでなく、新約聖書の中にも引用されている重要な聖句に注目する必要がある。例えば、民数記12章3節「さて、モーセという人は、地上のだれにもまさって非常に謙遜であった。」、イザヤ61章1節「神である主の霊が、わたしの上にある。【主】はわたしに油をそそぎ、貧しい者に良い知らせを伝え、心の傷ついた者をいやすために、わたしを遣わされた。」。ゼカリヤ9章9節「シオンの娘よ。大いに喜べ。エルサレムの娘よ。喜び叫べ。見よ。あなたの王があなたのところに来られる。この方は正しい方で、救いを賜り、柔和で、ろばに乗られる。それも、雌ろばの子の子ろばに。」など。
旧約各書から
モーセ五書
モーセ5書から下記のことが言える。
制度的な仕組み
- 7年毎に負債の免除をしなければならない。・・「そうすれば、あなたのうちには貧しい者がなくなるであろう」(申命記15章1~4節)
- 50年毎に「ヨベルの年」が設けられている。土地の返却、奴隷の解放などをしなければならない。(レビ記25、27章)
社会全体として配慮すべきこと
社会的に弱い立場の人々に対して配慮しなさいと何度も何度も語られる。
- 「みなしご、やもめ、在留異国人」に対して配慮せよ
- 「あなたは耳の聞こえない者を侮ってはならない。目の見えない者の前につまずく物を置いてはならない。あなたの神を恐れなさい。わたしは【主】である。」(レビ記19章14節)
- 貧しい者から利息を取るな。貧しい者に金を貸すときには担保を取ったままで一日を終えてはならない。(申命記24章12,13節)
- 貧しい者への賃金はその日のうちに支払え。(申命記24章14,15節)
- 畑の作物を取り尽くすな、収穫の時に落ちたものは拾うな。収穫時に置き忘れた作物の束は取りに戻るな。それは在留異国人や、みなしご、やもめのものとせよ。(申命記24章19節)
背景にあること
- あなたがたも以前は奴隷の身として、虐待され、苦しめられ、過酷な労働を課せられていたではないか。(申命記26章7節)神はその叫びの声を聞かれ、あなたがたを救われた。
- 仕事をして収穫があるならば、あなたの手をわざを神が祝福されたのである。だから、あなたはむさぼらないで(ガツガツするな)神の命令を守れ。神があなたの手をわざをさらに祝福してくださる。
- 神を信じる民の間でこのことが守られるならば、他の国々に神の知恵と悟りを示すことになる。(申命記4章6節)